大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1663号 判決

控訴人等が昭和三四年二月一二日被控訴人から一五万円を受領したことは当事者間に争がない。そこで進んで、右一五万円を受けとるについての前後の事情、この金員授受の趣旨等について考察するに、(証拠)を綜合すると次のように認定することができる。

亡三星喜八の葬儀が昭和三四年二月一一日行われ、翌一二日の午前中火葬場より遺骨を収めた後、控訴人ノブヲ宅に同控訴人の親族等が集り、遺族の今後の生活につき話合い、控訴人ノブヲも今後喜八の後を継いで女手で細々ながら薪炭小売商をするほかあるまいとの話ができた際、丁度その席に来合わせた被控訴会社会津若松支店庶務係長笠原勇が右支店では毎年多量の木炭を消費するので、その分を控訴人ノブヲ方から買入れるように支店長に話してみようといいだした。そこで支店長と話し合うため、訴外三星徳丸(喜八の実兄)が喜八側の親族を代表し、同渡部力(控訴人ノブヲの実兄)が控訴人ノブヲ側の親族を代表して笠原とともに同日午前中同支店に赴き、支店長鈴木卯兵衛と折衝した結果、(イ)本件事故については自動車損害賠償保障法による保険金の最高額を受領できるよう被控訴人側において努力する、(ロ)喜八の葬議費用を含め、見舞金として一五万円を被控訴会社から控訴人等に交付する、(ハ)同支店の使用する木炭は年間大体一千俵位になが、これを控訴人ノブヲ方から買うことにする、また同支店の従業員にも木炭買入をあつせんする、旨示談の方針として一応の下話ができた。徳丸、力等は直ちに控訴人ノブヲ方に戻り、他の新族並びに同控訴人にこれを報告したが、その方針に格別異議をはさむ者はなかつたので、徳丸から同支店に取りあえず右の一五万円を同控訴人宅まで特参するよう電話したところ、同日午後四時頃笠原が同控訴人宅を来訪した。その際笠原は一五方円の小切手一通を持参してこれを徳丸に手交したので、控訴人ノブヲは笠原の持参した市販の領収書用紙に金額だけを記載したものにペンで著名し、その名下に喜八の印を押してこれを笠原に返却した。ついで控訴人ノブヲや親族等は笠原から、会津若松支店では右一五万円のほかに喜八の入院療費、花輪代等を支出し、合計二〇万円を要したので、これを主管の被控訴会社福島支店に報告する必要上印を貸してほしいといわれ、右の印を笠原に渡したところ、同人は白紙にその印を押捺した上、同控訴人や親族等に対し後日福島支店と相談して改めて示談書を作成したいから、その際は徳丸や力も立ち合つてほしいと述べた。その後親族の一人である渡部信江から示談書を作るにしても会津若松支店等で買つてくれるという木炭の種類、数量等を明確にしておかないと後日困ることになるという話がだされ、他の親族達もこの意見に同調するにいたり、笠原及び鈴木支店長に対し、右木炭の積類、数量等を示談条項に明記してほしいと交渉したが、同支店側では右の木炭買上げの話は単に好意的にしたもでの義務的なものではないという見解を示しその申入に応ぜず、右交渉はまとまらなかつた。そこで控訴人ノブヲはこの件につき所轄裁判所に民事調停の申立をしたが、この調停も不調となり、本訴の提起となつた。このような経過となつたので、前記(ロ)の保険金の請求については同支店においてその事務手続に協力せず、控訴人ノブヲ側で専らその手続をするの止むなきにいたつたが、被控訴会社において保険金支払者側に対し現在訴訟中であるのでその支払を留保されたい旨要請した事情もあつて、控訴人ノブヲは保険金三〇万円を昭和三四年九月一五日頃にいたつてやつと入手することができた。

以上認定の経緯によると、なるほど当事者間に示談の下交渉として一応の解決方針が打ち出されたことおよびこれに基づく示談成立を見越して取りあえず一五万円の見舞金の授受がなされたことを認めうるけれども、右金員が授受されたことによつて直ちに被控訴人主張のような和解が確定的に成立したとみることは困難である。けだし、控訴人ノブヲ方では突如一家の主柱である喜八を失い、残された二児を抱えてしかも懐胎中のノブヲが将来如何にして一家の生計を立てて行くか、容易にその見通しも立ち得ない状況であつたところ、たまたま示談の前提として多量の木炭買上げの話が持ち出されたので、自動車損害賠償保険法による三〇万円の保険金と被控訴会社の支払う葬式費用を含めた見舞金一五万円の程度では、さして今後の生活の担保とはなり得ないとしても、被控訴会社との間に長期間多量の木炭取引が継続して履行されることが確約されるならば、遺族の生活も何とか立ち行くものと考えたからこそ、控訴人側ではその線に沿つて示談交渉を進めて来たのであつて、従つて控訴人側が主眼とした木炭買上げの点につきその取引の要綱を最終的な示談書の上で明確にした上で、確定的に示談を成立せしめる意向の下に、終局的取極めに先立ち一応前記見舞金を受領したものであると見るのが、前掲挙示の証拠及び前段認定の経緯に照らし、当該事態における当事者の真意に適うものと考えられるからである。

右の次第で、終局的に被控訴人主張のような和解が成立したとは認め難く、被控訴人の抗弁は結局採用し難い。

(奥野 野本 海老塚)

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